夬は、王庭(おうてい)に掲(あ)ぐ。孚(まこと)あって号(さけ)ぶ。癘(あやう)きことあり。告ぐること邑(ゆう)よりす。戎(じゅう)に即(つ)くに利あらず。往くところあるに利あり。
朝廷に揚言して誠をつくして人々を呼びかけるが危険である。自国よりよりよく治め、武力を用いるはよくない。仁政を進んで行うのはよろしい。
夬は弓を射るときの弓懸(ゆかけ)=弓の弦を引っかけて引く道具。そこから弦と弓をわける=決断する、押し切るの意味。
好ましくない者を排除せんと決断し、決行直前の状況でその心構えを説く卦。(彖伝)
もう一つは決壊するを意味する卦。(象伝)
王庭(朝廷)つまり公の場で罪状を明らかにし、その理由を誠意(孚)をもって呼びかける。六爻の小人を排除するに思わぬ危険(癘)があるやもしれず覚悟するべき。
自国(邑)の管轄内で仲間に根回ししておいて取りかかる。強引に行うのはよくない。手順を踏んで決行するなら「往くところ利あり」=思い通りに運ぶ。
①決断の時
②周到にしないと危うい。強引策は行き詰まる。
③だが十分に用意してかかれば、案ずることはない。
人間が最初に覚える感情は「恐怖」である。なぜなら、危険を察知しなければ生きていけないから。
つまり、先が分からないから恐怖を覚える=不安なのである。それは悩みでもある。悩みに対応するには三つしかない。
①逃げる②戦う③思考停止。どうしても早くその状態から抜け出したくて悩む状態を「悪」としがちだが、極まるまで待つことが重要だ。
悩むことは決して悪ではない。悩んで悩み抜いて決断する。安易に行動してはいけない。
各爻
初九 址(あし)を前(すす)むるに壮なり、征きて勝たず、咎となす
前あしに力がこもって前進しる意気は、盛んであるが力不足で耐えられない。災いとなる。応爻なし。猛進して禍をうける。時を待つこと。
勝算なし。進むべきでない。
変 28䷛沢風大過 陽が過度に旺盛なためバランスに欠けて重圧に耐えられない。
九二 惕(おそ)れて号(さけ)ぶ、莫夜(ぼや)の戎(つわもの)、有れども恤(うれ)うることなかれ
憂いて泣き叫ぶ。夜襲であるが心配はない。意外の自己に合うが免れる。
不慮の災いがある。警戒を怠らないこと。
変 49䷰沢火革 機が熟すと、不可能と思っていたこともあっけなく実現する。
九三 つらぼねに壮なり。凶有り。君子、夬を夬(さだ)む。独り行て雨に遇う潤が若くに慍(いかる)るあり。咎なし。
血気盛んで面骨までそれが表れている。凶である。君子は結構するときは思い切って行う。独り飛び出して雨に会い身体が濡れるように濡れ衣を着せるような羽目となり、疑いをかけられる恐れがあるかも知らないが、災いは免れる。小人に味方して疑われ讒言にあう。怒って損することあり。
強気すぎて失敗。裏から行って成功する。
変 58䷹兌為沢 心からこみ上げてくる悦びは、棚ぼた式には授からない。
九四 臀(いさらい)に膚(はだ)なし。其の行くこと次且(じしょ)たり。羊に牽かれて悔亡ぶ。言を聞いて信せず。
尻の肉がすりむけて、進むに痛くて思うようにいかずグズグズしている。人が羊をひきつれていくように強剛なものに従っていけば後悔するようなことは起きない。忠告を信じないで失敗する。凶。目的地までなかなか行けない。
板挟みとなり、迷って失敗する。
変 5水天需 逸る気持ちを抑え、ひたすら腰をすえて虚心に待つ。
九五 莧陸夬夬(けんりくかいかい)。中行。咎なし。
やまごぼうを抜き去る。小人を除き抜き去る。中正を行えば過ちはない。極端に走らずまた恐れうろたえなければよい。用心すること。
極端に走って悔やむ。邪魔が入る。
変 34䷡雷天大壮 陽気が盛んとなり、草木が一斉に新芽を出す季節である。こざかしい手を使わぬ方がよい。
上六 号ぶこと无(な)し。終に凶あり。
助けを求めて泣き叫んでも無駄である。結局は凶である。身を滅ぼす。天の助けなし。決壊の危機。
打つ手がない。偶発的な災いがある。得意になると損をする。控えめがよい。
決し去る。(小人の立場を言っている)
変 1䷀乾為天 物の始まりで、強い力が働く時である。予測しがたい出来事も、天歩みと同様にすべてはなるべくして成る。
互卦 1䷀乾為天
綜卦 44䷫天風姤
錯卦 23山地剝
占いキーワード
不慮の災いあり、万事決潰のとき。物事が決定する。
商売では、
長引く取引は中止した方がよい。文書に注意。初めより後がわるい。こちらの意図とは無関係に決まることが多い。偶然障害が起こって挫折する。勝負は勝ち。早いほうがよい。
恋愛では、
こちらが熱を上げている。相手もわがままなところがあり、互いに気性は激しく、争いを起こしやすい。愛情の行方の決着は近いが、目指している方向とは違う事もある。強引だと破れる。互いの心は決まっている。結婚はゴールインを急ぐが、偶発的な支障が起きてまとまらない。意志に添わず決着しかねる。夫婦不和となるので見合わせる。
病気は、
軽くみえても、だんだん悪化する。
なくし物
出ない。壊れている。
参照:岩波文庫「易経」(上)、「現代易入門」、「易経読本」
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